2007年12月17日月曜日

サーカス


 クリスマスによくお話する、心温まるお話をご紹介します。
有名なお話ですので、どこかで聞いたことがあるかもしれません。
次のような話です。  

 私がまだ十歳の頃です。サーカスの入場券を買うために、
父と私は長い列に並んで順番を持っていました。
ようやく、私たちの前にいるのはあと一家族だけとなりました。

 私はその家族に強く心を引かれました。
とても印象的だったのです。その家族には子どもが8人もいて、
一番年上の子どもでも12歳ぐらいにしか見えません。
あまり裕福そうではなく、着ている服も上等とはいえませんが、
きれいに洗濯されています。

 そして行儀良く手をつないで、両親の後ろにきちんと二列に
並んでいました。期待に胸をはずませた子どもたちは、
ピエロのこと、象のこと、そして今から見る色々な演技のことを
嬉しそうに話していました。

 どうやら、サーカスを見るのはこれが初めてのようです。
子ども達にとって、今日のサーカスは生涯残る素晴らしい思い出
となることでしょう。

 子ども達の前には両親がとても誇らしげに立っていました。
夫の手をしっかりと握った妻は、「あなたは私の騎士」と言わん
ばかりに、夫を見上げています。夫も暖かい微笑みを浮かべて
「ああもちろんさ」と言わんばかりに妻を見つめ返していました。

 売り場の女性が、入場券の枚数を尋ねます。父親は胸を張って
答えます。「子ども8枚と大人2枚下さい。これで家族にサーカス
を見せてやれますよ」入場券の合計金額が告げられました。

 すると、妻は夫の手を離し、黙ってうつむいてしまいました。
夫の唇も震えていました。売り場の窓口に身を乗り出して、
彼はまた聞き返しました。「いくらですって?」

 売り場の女性は、もう一度答えました。その父親には、
それだけのお金が無かったのです。サーカスを見るにはお金が
足りないということを、後ろにいる8人の子ども達には、
どうやって告げようというのでしょう。

 事の成り行きを見ていた私の父は、ズボンのポケットに
手を入れました。そして20ドル札を取り出し、何気なく
落としました。父は腰をかがめてそのお札を拾い上げ、
その男の肩を軽くたたきました。

「失礼ですが、ポケットからこれが落ちましたよ」その男は、
私の父が何をしようとしているのか、すぐに察しました。
彼は人から施しを受けるような人ではありませんでした。

 でも、その時は恥ずかしさと落胆から、途方に暮れていたのでしょう。
その助けを心から感謝して受け取ったのです。20ドル札を差し出す
父の手を両手で固く握り締め、その目をじっと見つめました。

 唇は震え、ほほには涙が伝わり落ちています。
「ありがとう、ありがとうございます。これで助かります。」

 父と私は車に戻ると、そのまま家に帰りました。
その晩、私たちはサーカスを見ることはできませんでした。
でも、それでよかったのです。


                      SDA大阪センター教会牧師 藤田昌孝

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